蜜蜂と遠雷読んだり見たり
20170514
流行や話題の本に飛びつくことはあまりないですが、そうは言っても音楽を題材にしこれほどの大評判をとっているとなれば、読まないわけにはいきません。直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸の「蜜蜂と遠雷」です。
3年に一度開かれる芳ヶ江国際ピアノコンクール(浜松国際ピアノコンクールがモデル)。90名を超える若手ピアニストたちがここで競い合う。その中の4人を軸に話は進んでいきます。
いずれも才能あふれるその4人とは…
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年、風間塵(16)
かつて天才少女と呼ばれながら、母の死以来ピアノが弾けなくなった栄伝亜夜(20)
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目されるマサル・C・アナトール(19)
楽器店勤務の妻子持ちサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石(28)
彼らの演奏する音楽を、著者は文章でどう表現したのか。直木賞や本屋大賞の選評や書評で“行間から音楽が聞こえる”と絶賛を受けていました。興味津々で私も読んでみましたが、お見事だと思います。コンクールで演奏される曲は、一次予選から本選まで一人十数曲。それらを4人の個性ともに書き分け、そして短いコンクール期間中、互いに触発された彼らの成長さえもまざまざと感じ取れます。
コンクールですから、誰が栄冠を勝ち取るかのサスペンスが物語の柱であるのはもちろんですが、登場人物たち、本当に「いい奴ら」なんですよね。みんなに賞をあげたくなります。いちおう音楽愛好者(ピアノ界にはそんなに通じてはいませんが)の私から見ても、設定や描写にはかなりのリアリティと説得力があり、ぐいぐい読ませます。
というわけで、時間を忘れてほぼ一日で読みました。傑作だと思います。一読をお薦めします。
タイトルの「蜜蜂」はもちろん風間塵との関連ですが、「遠雷」の描写は本書に一箇所だけさらっと出てきます。何の比喩なのでしょうか、よく解らなかった。もう一度読み直してみたいな。物語に登場するピアノ曲で私の知らない曲もたくさんありますし。