セムラとの邂逅 (1)食べもの
20170217
「セムラ」って何だか、お聞きになったことがありますか。私は小学生のとき読んだ本でこの単語を知り、しかしそれがどういうものか、実体を知ることがありませんでした。
それは、オーケ・ホルムベルイという人の書いた「迷探偵スベントン登場」という児童書に登場するお菓子の名です。(本はとっくの昔に絶版になっている)
主人公スベントンは、ストックホルムに事務所を構える私立探偵で、優秀な男なのですが何故かまったく仕事がありません。たまに来客があると、秘書に外から電話をかけさせ、客の前で忙しくてんてこまいな芝居をして見栄を張っている始末です。
彼はある日、不思議な東洋人訪問客から一枚の古ぼけたじゅうたんを買い受けることになりました。それは何と「空飛ぶ魔法のじゅうたん」だったのです。彼はこの新アイテムを使って、難事件を解決していきます。
スベントンの大好物が「セムラ」というお菓子です。本当は復活祭の前にだけ食べる季節のお菓子なのですが、ストックホルムのある菓子店だけは一年中セムラを作っていて、スベントンはしばしば女性秘書に頼んで(仕事がなくお金もないので、ツケで)買いにやらせ、楽しんでいるのです。
スベントンには一つ弱点があり、それは「舌がまわらなくてうまくしゃべれない言葉がある」ということです。本名は「ストーレ・スベンソン」というのですが、自分で自分の名をうまく言えないことから、彼は「トーレ・スベントン」と改名してしまいました。またピストルのことは「ピトル」、セムラのことも「テムラ」としか言えないそうです。
いったいテムラならぬセムラとは何ぞや?生クリームをたくさん使ったケーキのようなものだと本には書いてありました。缶に入って売られているらしい。(スベントンはある大事なものをセムラの缶の中に入れたまま忘れてしまい、窮地に陥ります)スベントンの留守中、事務所に侵入した謎の大男に、1ダースのセムラを食べられてしまう。ヒントはこれだけ。一度見てみたい食べてみたいと、将来の邂逅を待ち焦がれておりました。
しかしセムラの情報を目にすることはなく、子供の頃の話ですから、いつしかセムラのことは私の意識から遠ざかっていき、まったく思い出すこともありませんでした。
ところが先月、ある雑誌でセムラを目にする機会があり、何十年ぶりの再会?にびっくりしたのです。