安心と安全、築地と豊洲日々雑記
20170202
台湾ネタをちょいとお休みして。豊洲の地下水モニタリングで環境基準の79倍のベンゼンが検出された、という少し前のニュース。豊洲への市場移転の決定は、さらなる先送りが確実となりました。
もうこの問題は、科学ではなくそれぞれの信条の領域に入ってしまったのでしょうか。飲み水にするわけでも、機具や設備を洗うわけでも、床に流して掃除をするわけでもない。コンクリートの壁で市場から遮断されている地下水の水質を、ここまで問題にすることが正しいのか。私は専門家ではありませんが、これまで見聞した情報からは「何の問題もない」と思っています。
築地市場が老朽化し、そもそも壁のない構造から埃、排気ガス、小動物が入り放題になっている現状は、それなりに知られています。その地下を流れる水がどんな状態なのか、どころの話ではありません。しかし多くの人の「築地ブランド」への憧れと信頼は今も絶大です。安全でなくても安心される築地、安全なのに安心されない豊洲という、まことに矛盾した事態になっているのです。
生鮮食品を扱う施設には、一般建造物よりも厳しい安全衛生への配慮が求められるでしょう。しかしそれは無制限に適用されるものではありません。ゼロリスクなんてことは不可能で、そのために様々な基準が数値設定されているのです。いま言われている環境基準とは「飲用を前提に設定された基準」です。
この数か月、豊洲市場はメディアの玩具にされてきました。昨年夏には「盛り土」問題が、連日連日大袈裟に取り上げられました。おそらく設計から施工に至る手続きの上では、問題があったのでしょう。しかし完成した建造物には、盛り土があるかないかは構造上全く問題がないと判明しています。これを理由に豊洲使用に難癖をつける人はいません(と思う)。
小池百合子氏は選挙中も都知事に就任してからも、旧勢力との対決を自らの支持を高めるために利用しようとしています。そのターゲットが豊洲市場とオリンピックでした。しかし今では落としどころを見つけられずに、とんでもないところを右往左往しているのではないでしょうか。こんなことを政争の具にしないでもらいたい、当事者・関係者こそ、大変な迷惑を被っているのですよ。
いま求められるのは、センセーショナルな報道や一部の極端な意見によって安全と安心を混同している人々の誤解を、冷静かつ科学的な説明で解くことです。…でもここまでこじれてしまっては、「豊洲ブランド」のダメージはもはや回復不可能かもしれませんね。豊洲は本当に、もう使えなくなるのでしょうか。
私は都民じゃないので、豊洲への莫大な投資が無駄になっても直接自分の懐は痛みませんが、食に携わる仕事の中でつながりのある人の損害もあるかもしれません。だいいち心が痛みます。こんなことでいいのかと憤りを覚えます。
関連リンク: 郷原信郎氏のブログ