大統領広島へ日々雑記
20160530
あの日から71年。オバマ大統領は、現職大統領として初めて被爆地広島を訪問し、原爆資料館を見学し、献花し、17分間にわたって思いを語りました。
オバマ氏は大統領就任時から核軍縮に大きな意欲を見せました。世界に与えたそのインパクトは強く、ノーベル平和賞を受賞もしています。しかし現実社会は彼の望んだ形には向かず、言葉は悪いですが空手形を発行したような状況になっていました。任期が終わりつつある今、ようやく広島を訪れることができたわけです。
原爆投下は、非戦闘員を無差別に大量虐殺した、当時の戦時国際法にも違反する明らかな暴挙です。にもかかわらず米国民の多くは、原爆投下を正当なものだったと考えています。終戦を早め、本土決戦によってさらに多くの犠牲者が出ることを防いだというもの。私たちから見ればまったく身勝手な理屈です。彼らがそのように考えている大きな原因は、核兵器の恐ろしさ、悲惨さを知らないこと、知ろうとしないことだろうと思います。
修学旅行などさまざまな機会に広島や長崎の原爆資料館を見学した方は、本欄の読者にも多いでしょう。私もこれまで広島に2回行き、その都度訪れています。被爆者の焼け焦げた衣類や数々の遺品、建物に焼きついた人の影を見て、心を揺さぶられない人はいないはずです。
ここには既に多くの著名人が訪れています。ジミー・カーター元アメリカ大統領、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世、マザー・テレサ、また世界各国の大統領や首相たちも。そのリストに、原爆を投下したアメリカの現職大統領が名を連ねた意義は小さくありません。すべては「知ること」から始まります。彼がわずか10分間とはいえ、自分の目で見たことが大事なのです。
今回オバマ氏が謝罪をするのか、あるいは彼に謝罪を求めるのかが注目されました。今のアメリカの状況で、謝罪のスピーチなどあるはずがありません。今さら謝罪してもらったところで取り返しのつくことでもない。広島の人たちをはじめ、多くの日本人は彼に謝罪を求めませんでした。それよりも核のない世界への願いを共有し、共に歩いて行こうと、お互いが手を取り合いました。このことに私は感動し、誇りに思います。
微笑みながらオバマ氏と握手をした坪井直さん、そして言葉が出ずに彼と抱き合った森重昭さん。お二人の姿を見て心打たれた人が世界中に大勢生まれたことでしょう。
多くの人が力を尽くしたことで、戦後71年にしてようやくこの日が訪れました。この思いがいつかきっと、世界を動かしてくれることを信じたい。オバマ氏のスピーチを読みながら、そう思いました。