八朔の雪読んだり見たり
20100731
八朔(はっさく)とは、8月1日のこと。花街では芸妓や舞妓が、お茶屋さんや芸事の師匠にお礼の挨拶に回るしきたりがあるそうです。
もう明日から8月ですね。最近読んだ本の紹介です。
高田郁「八朔の雪」 みをつくし料理帖 時代小説文庫
主人公・澪は、故郷の大坂で少女の頃に水害で両親を失いますが、老舗料理屋の女将に拾われ、その天性の味覚を買われて料理修業に励んできました。
故あって江戸へ出た澪は、神田のそば屋「つる家」で店を任されます。旧友との思い出やライバル店の妨害、温かく見守ってくれる周囲の中で成長していく澪の物語を、おいしそうな数々の料理とともに描きます。
人情話で、うーん泣けますねえ…あまりにストレートな話の運びで、特に奥深いとかいう訳ではないのですが、私こういうのには弱いんです。出てくる人が、もうみんないい人でいい人で。(このことは、はっきり言って小説の奥行きをなくしているとも思いますが)
作者は、映像をずいぶん意識しているのでしょうね。漫画原作者でもあるそうですし。そのままNHKの30分時代劇のシナリオになりそうな。(一話60頁ほどの連作小説なのです)
澪は「上方と江戸」の食の違いにたびたび悩みます。味付けのことはもちろんですが、そればかりではなく、それぞれの食習慣や、江戸っ子気質といったものまで含まれ、試作して「絶対これはいける!」と売り出した自信の一品がまったく受けず、困惑することもしばしばです。逆に、江戸ではほとんど食べられていない上方の名物が大ヒットすることもあります。
何といっても出てくる料理がどれもおいしそう!ほっこりとした湯気まで想像してしまいます。
本書は昨年いくつかの賞を受賞し、ちょっとしたベストセラーになっているらしく、すでに続編「花散らしの雨」「想い雲」が出ています。
タイトル「八朔の雪」…8月に雪とはこれいかに。読んでのお楽しみとしておきましょう。