ゼロからトースターを作ってみた読んだり見たり
20121208
手作りの限界に挑む!
この秋出版された本ですが、ユニークな内容がちょっとした話題になりました。最近ようやく読んだので、ご紹介など。
著者はイギリス人で、デザインを学ぶ学生です。彼は卒業制作の題材を探すうち、ポップアップ(焼き上がったパンがガチャンと出てくる)トースターをゼロから自分の手で作ってみようと思い立ちます。
モデルにした普及品のトースターは3ポンド94ペンス(521円)。安い。でもこの安さって、便利さに比べて幾らなんでも安すぎるんじゃないの?こんな疑問が彼の発想のスタートでした。
「ゼロから作る」という言葉はこの場合、何を意味するのかというと…
たとえば部品を作る鉄。地中から鉄鉱石を掘り出すところから始め、自分の手で精錬し、叩いて伸ばし、部品として加工する。以下、プラスチック、断熱材となるマイカ(雲母)、銅、ニッケルなどの材料をすべて自力で調達・製造するところから始めようとする、「普通考えないだろう、アホじゃないか」ともいえそうなプロジェクトです。
その方法(試行錯誤)がいかにも非専門の学生らしくて笑えます。鉄鉱石を精錬するのに、高温の炉が必要になります。著者はまずコンクリのパイプ、ゴミ箱や書棚の板などを使った溶鉱炉?を作りますが、できた「鉄」は不純物を取り除けず、ハンマーの一撃で敢え無くバラバラ。次には母親の電子レンジを借用し、読者の期待通り見事レンジをオシャカにしてしまいます。
2台目の電子レンジの内部に断熱のセラミックウールを敷き詰め、ようやく苦難の末に加工可能な「鉄」を作り出すことに成功します。
かと思うと、プラスチックを作るために、ブリティッシュ・ペトロリアム社に電凸し原油を少々分けてもらおうとしますが、ハナから相手にもされず撃沈。最初はかなり厳しいルールを自分に課しているのですが、いよいよ無理っぽいとなると結構ヘナヘナと妥協してしまうところが、学生らしいというか。
著者は結局9ヶ月、約15万円をかけ、トースターらしきものを完成させます。表紙写真のドロドロしたやつがそれです。さて、このトースターをコンセントに繋いで、実際にパンが焼けたでしょうか?
消費社会に対する批評の書だなんていう人もいますが、そんなこともチラっと念頭に置きながらノリを楽しむくらい本だと思います。けれども日頃私たちが当たり前のように使っている機械がどれほどの蓄積から出来ているのか、たまには考えてみるのもいいかもしれません。