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夕鶴、苦労話など(2)音楽ばなし

20240706



オペラは歌がメインであって、歌をかき消してしまう打楽器の大音量は歓迎されません。たいていのオペラでは打楽器の出番はとても少ないのです。でも少ない音の一打一打に深い意味があり、大切です。


夕鶴も例外ではありません。今回、ティンパニの私とその他5種類の打楽器をすべて掛け持ちしたSさんと二人でやりましたが、ちょっと叩いては100小節、ちょっと叩いては200小節と膨大な休みです。以前やった出番だらけの「カルミナ・ブラーナ」とは大違い。


次の出番まで、休みの小節を数えることが大変。曲を覚えていれば全部を数えなくたっていいのですが、こう長いと紛らわしいところも多い。ふだん私たちが手掛ける曲は「ここで打楽器出番だぞ!」と誰もが思うところに音符があるものですが、前述のようにオペラは突然の場面転換も頻繁にあり、ただ予測するだけでは落ちてしまいます。


ちなみにオケ用語で「落ちる」とは、本来音を出すべきところで出られず、音楽に穴をあけてしまうことです。小節や拍子の数え間違い、思考の一瞬の空白など理由はありますが、100%本人の責任なので周りからは白い目で見られ文字通り落ち込みます。(あまり気にしないメンタルの強い人もたまにいますが)


さらにティンパニには途中で太鼓の音程を変える場所があります。他の楽器が演奏している音や調を耳で聴きながら合わせます。どこから音を取るのかはあらかじめ総譜を見て探し、楽譜に書き込んでおきます。演奏中に音替えをする時はどうしても(私の場合)一時的に楽譜のことがお留守になり、その間に拍子が変わったりするともう大変です。


主人公「つう」が、自らの命を懸けて最後の布を織り始めるところ。ハープのグリッサンドと小太鼓、大太鼓が機織りの音を模した音型を演奏します。つうの正体が鶴であると悪党たちにわかってしまい、「決して織っているところを見ない」と固く約束した与ひょうも逡巡の末、好奇心に負けてとうとう機織り部屋を覗いて見てしまいます。夕鶴のクライマックスです。


私は機織りの場面が始まるといつも、破局に向って止めることのできない時計がついに動き出したような思いがし、胸が締め付けられます。きわめて印象的なハープと打楽器の音型は、与ひょうが茫然自失し家を飛び出し、第二部(翌日の夕方)になっても延々と続けられます。その数、180回!


同じような音型を機械的に繰り返すのではなく、感情の高ぶりや弛緩に合わせて(というより、音楽をリードして)演奏する、とてもやりがいのある仕事です。プロのハーピストと共にしっかり布を織り続けたSさん、お疲れ様でした。

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