法に殉じた判事日々雑記
20240610
朝ドラ「虎に翼」を面白く観ています。法学部に籍を置いた者としては馴染みのある世界のお話ですし、ドラマの展開が早くて飽きません。女性の権利のために生涯を捧げたという重いテーマですが、今のところ軽やかにうまく消化しているようです。主題歌、タイトルバックのアニメーションもいいですね。
先週末、主人公寅子が過去に恋していた大学の同期生、花岡が死亡しました。裁判官の身として、食管法を犯してヤミ米を食べることを拒否して餓死したというのです。寅子、そして彼女を取り巻く人たちは愕然とします。
このエピソードにはモデルとなった事件があります。有名な話だと思っていましたが、初めて聞くという人も意外と多いみたいですね。
実在したのは山口良忠判事。誰もがヤミ物資に頼らなければ食べていけなかった時代、食糧管理法に反する行為はできないとして一年半もの間、米のとぎ汁などをすするばかりでほとんど固形物を口にすることがなかったといいます。妻の実家や知人からの援助も断り続け(妻子には食べさせていたようですが)1947年11月、33歳で世を去ります。
山口判事の死が新聞で取り上げられて世間の受けた衝撃たるや。法を順守すれば生きていけないのならば、法のほうが間違っています。高潔な判事の逝去を悼んだ人はもちろん多かったでしょう。しかし、正直者もここまでくればとても世渡りできまい、と引いた目で見ていた人もいたはずです。
リンク先記事の終わりには、判事の長男の言葉としてこんな引用があります。
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とうとう一個の法律と一方的に心中してしまった自己陶酔型の利己主義者。(中略)「山口、お前のお父さんは偉い人だった。それなのに、なんだお前は」といわれもしたが、ではその父は、母と幼児を遺棄し、一体、どんな立派な義務を尽したということができるのか。
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家族でしか言えない正直な言葉だと思いますね。いくら法の番人といえども、死んでは何にもなりません。私も人並みの正義感は持ち合わせているつもりですが、法のためにわが身を差し出すようなことはとてもできないです。法のために人があるのではなく、法が人のためにあるはずだと思っています。
関連リンク: 1年間汁ばかりをすすり33歳で死亡…朝ドラで花岡のモデルになった山口良忠判事の壮絶な栄養失調死 (プレジデント)