謎の変奏曲音楽ばなし
20161102
11月13日、伊那フィルの定期公演で演奏するこの曲は、とっても、とっても素敵な曲なのです。私は以前から一応知ってはいましたが、お恥ずかしいことに、真剣に聴いたことがありませんでした。自分たちで取り組むことになって、譜面を読み、聴き込みながら、それまで気が付かなかったこの曲の魅力に今どんどんはまっているところです。
その曲は「エニグマ変奏曲」。作曲は行進曲「威風堂々」で知られる19-20世紀英国の作曲家、エドワード・エルガー。
エニグマとは「謎」のこと。変奏曲というのは、テーマとなるメロディーを次々に変化させてさまざまなスタイルで聞かせる曲の形式です。料理に例えると、ある食材を生で食べたり焼いたり煮たり揚げたり、ほかの食材と合わせたりして楽しむ「○○尽くし」みたいなものでしょうか。
この曲はテーマとそれに続く14の変奏からできていますが、それぞれの部分を作曲者エルガーの家族、友人、知人になぞらえらているのです。エルガーはそれぞれの変奏が誰を表しているのか明らかにせず、イニシャルだけをヒントとして示しました。
ところが詮索好きの友人たちがエルガーを問い詰めて白状させ、今では第13変奏を除いてすべてバレてしまいました。たとえば、第1変奏「C.A.E」はエルガーの妻Caroline Alice Elgar、第2変奏「H.D.S.-P.」は音楽仲間のピアニストHew David Stewart-Powellというふうに。
それぞれの曲は、モデルの人となりを表しています。第6変奏「Ysobel」は音楽一家の令嬢で、エルガーにヴィオラを習っていました。この曲はヴィオラの初心者が苦労する「移弦」の練習を模しています。また第10変奏「Dorabella」は、エルガーがとても可愛がっていた若い女性で、少し吃音の癖があったそうです。この曲ではそのちょっぴり舌足らずなところを、とてもチャーミングに描いています。(曲を聴いて彼女は大変喜んだとか)
第11変奏「G.R.S.」は大聖堂のオルガン奏者ですが、モデルは彼ではなく彼の飼い犬、ダン。散歩道で川に落っこち、必死に泳いでようやく岸にたどり着き、嬉しそうに吠える様子です。
こんな調子でそれぞれの人物像を描きわけています。作曲者がユーモアを交えて友人たちに寄せた親愛の情がいかにもイギリス紳士っぽく、本当に素敵な曲です。音楽ファン以外にはそれほど馴染みのない曲だと思いますが、ぜひこの機会に耳を傾けていただければ幸いです。
**伊那フィルハーモニー交響楽団 第29回定期演奏会**
11月13日(日)午後2時開演 長野県伊那文化会館
曲 目
ボロディン:歌劇「イーゴリ公」序曲
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調
エルガー:エニグマ変奏曲
指揮 横山奏 チェロ独奏 飯島瀬里香
若きチェリスト、飯島瀬里香さんの協奏曲も聴きものですよ!
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