サイトウキネン/サロメ (続き)音楽ばなし
20100825
公演を観ての感想。。
舞台はシンプルながら立体的で、ゴージャス感はないものの、よく考えられていました。シカゴでのプロダクションを持ち込んだものです。古井戸は蚊帳のように透けて見える四角いテントで囲まれ、その中から鉄格子の檻がせり上がってくる仕掛けです。また高いところに回廊が設けられて、歌手は2階と1階を行き来しながら歌います。
照明がとても良くできていて、美しく(時に、おどろおどろしく)効果的に見せました。
主演のデボラ・ヴォイト。とても良かった!オペラ歌手の常で、体格堂々たる女傑が10代の少女を演じる違和感はどうしてもあるわけですが、あまりそれを感じさせない演技で、ちょっと驚きました。可愛さ、さえ感じる部分もありました。歌は勿論素晴しかった。終始安定した美声で、声量も充分でした。
お楽しみ、七つのヴェールの踊りは…自分で踊ったのは立派でしたが(この部分だけダンサーが代わって踊ることもよくあるのです)妖艶というより、所によっては何だか巨牛がロープを引っ張りながら暴れているようにも(失礼!)。踊りの後も息が乱れることなく長大なモノローグを歌いきりました。お見事。
ヨハナーンのアラン・ヘルドも良かったですね。預言者というよりは、サムソンみたいなマッチョな感じでしたが。ナラボートのショーン・パニカーも、急遽代役ということでしたが、いい歌と演技でした。
ヨハナーンを檻につないでいた太いロープにこだわった演出で、サロメはヨハナーンが井戸に帰ってからもときどきロープを抱きしめ匂いをかぐし(あんたは、のだめか!)幕切れ、通常なら兵士の盾に押し殺されるサロメが、ここではこのロープで首を絞められて絶命します。あえてそうするほどの効果があったかどうかは、疑問かな。
サロメがヨハナーンの首を抱えて歌うところ、いかにも「張りぼて」みたいに軽々とちっちゃな首を持ち上げていたのは、ご愛嬌。首といえば、エレベーターですっすとお盆に載った首が上ってきたのは、ちょっとあっさりしすぎでは?
オーケストラは、雄弁でした。キラ星のようにスーパースターが揃い、管楽器のソロの音色だけで陶酔感を味わえたサイトウキネン初期の頃の響きは今は聴かれません。そういう意味では普通のオーケストラになってきたのかもしれませんが、目指す音楽に進む一体感みたいなものは、凄いと思います。
オケピットのスペースの都合か費用の問題か、編成はいくらか縮小されていたようです。日本に何本もない希少楽器「ヘッケルフォン」がこの曲では使われるはずですが、見当たらず。他にも管楽器に省略されたパートがあったように見受けましたが…そうであれば、残念。もし勘違いだったら、ごめんなさい。
そして、指揮者。弱冠28歳の大抜擢、日本デビュー!良く頑張った、と思います。破綻なくこなしていました。弱音のところ、緊張感のある「間」がもっと欲しいな、というところもありました。事前に読んだオケメンバーのツィッターに、リハーサルでのテンポの速さが指摘されていましたが、私は不自然なほどの速さとまでは感じませんでした。
悪口も書きましたが、全体を通して、とても満足しました。そもそも曲の大ファンなので、ナマで見て響きに浸れただけでもOKかな?田舎にいてこんな演目を、高水準のパフォーマンスで観られたことに感謝したいと思います。