お墨付き食べもの
20131029
和食文化遺産の話を聞いたときに、すぐに連想したこと。数年前に農水省が立ち上げた「海外日本食レストラン認証有識者会議」、皆さん覚えていますか?(実際には今回のこととはまったく違う文脈のものでしたが)。
海外諸国で、オーソドックスな日本食とかけ離れた料理を出す「日本食レストラン」が急増している。それも日本人や日系人の店でなく、ロクに日本料理を食べたことさえなさそうな中国、韓国、アジア系移民によるものが多い。このままでは海外での日本料理の正しい理解につながらない…として、正統的な日本料理を出す店に第三者機関の認証(お墨付き)を与えようと、平成18年に提唱されたものです。
しかし内外から批判が相次ぎ、提唱当時の松岡農水大臣(ナントカ還元水の)が在任中に死去したこともあってでしょうか、何となく立ち消えとなって今に至っているようです。
批判の意見は今でもネット上に散見されます。寿司の現代形カリフォルニアロールや、ナポリには存在しないナポリタンスパゲティの例を引いて、美味しければそれでいいじゃないか、本物とか偽物とか、何で政府がそんなお節介を焼くのよ、といったものです。
アメリカのメディアは「日本が『寿司ポリス』を派遣するのか」などと猛反発であったとか。そんなものを押し付けたって、俺たちはこれをウマイウマイと食ってるんだ、文句あるか?ってなものでしょう。
私は日本食認証の趣旨に大いに賛成でした。当時の報道には誤解もあったと思います。アメリカ人が自分たちの好みに寿司をアレンジしたって何の問題もないし、それが美味しいか不味いかを判定しようというのでは最初からなかったはず。しかし、出鱈目な料理を「これが日本料理さ!」とする店が増殖するのをそのままにしておくことが、日本食文化の伝播に役立つとは思えません。「これが当店の日本風料理さ!」ならいいですよ。
私だってアボカドを巻いたカリフォルニアロール、好きです。世界にその愛好者が増えるのも大いに結構。ナポリタンはいま国内でかなりのブームになっていますが、郷愁のケチャップ味に惹かれる人が大人になって思う存分、大盛りのスパゲティを平らげるのも、楽しいでしょう。
しかし、カリフォルニアロールが本来の日本の寿司の姿とは違うこと。ナポリタンは戦後やってきたアメリカ文化が日本に定着したのだということは、できれば食べる人に知っておいてほしいです。「正しいもの」を知った上でアレンジは成り立つのですし、本家に対するリスペクトの気持ちは口に合う合わないとは別に、大切だと思いますから。
世界に日本料理の魅力を伝える手段として伝統をきちんと継承している店の認証は、クールジャパンのひとつの戦略にもなりえたはずで、この話がうやむやになってしまったのは、残念なことだと思います。