切腹読んだり見たり
20110818
ある方から、旧作日本映画のDVDを何枚も戴きました。これはその中から、盆休み中に観た1本。実は少し前に新聞記事でこの映画のことを読み、ぜひ観てみたいと思っていたのです。
若い食い詰め浪人が武家屋敷の門をたたきます。「生活に困窮し、生き恥をさらすよりいっそ切腹して果てたい。ついてはこちらの御屋敷の庭先をお借りしたい」頼まれた方は迷惑至極、いくばくかの金を払って追い返そうとする。実は初めからさらさら切腹する気なぞなく、こうした小金目当ての「たかり」が流行っていたのです。
舞台となる井伊家では、懲らしめ・見せしめのために浪人の申し出を承諾し、本当に切腹させようとする。青ざめる浪人。武士に二言はなく、後に退くことはできません。
用意された刀は何と自分の差してきた竹光。既に困窮のため刀は売り払っていたのです。切れるはずのない竹光で強引に腹を切ろうとする浪人。何度も何度も試み、血みどろになった末に舌を噛み切って絶命する。正視しがたい凄まじい場面です。
数ヵ月後、別の浪人が井伊家を訪れます…
復讐譚の中に、体面を最優先する武家社会への痛烈な批判が込められます。場面は終始屋敷の中と回想シーンだけなのですが、とても目が離せないほどの濃密な迫力が伝わってきます。浪人・仲代達矢、家老・三國連太郎の鬼気迫る演技。緊張感あふれるカメラと舞台。邦楽器を使った武満徹の音楽。お見事というほかありません。
えらいものを観せてもらいました。いま、こういう映画は作れるんだろうか。というか、興業として成り立つんですかね。(HARAKIRIと題して、カンヌ映画祭で特別賞を受賞しています)