夕鶴、苦労話など(1)音楽ばなし
20240703
木下順二の戯曲に團伊玖磨が作曲したオペラ「夕鶴」。上演回数はこれまで国内外で800回以上、日本人によるオペラでは群を抜いた人気を誇る傑作です。私もこれまで実演に二度接し、2011年9月に小規模な公演を観た感想を本欄に書いてもいます。
中学生の頃、演劇クラブで夕鶴公演に加わった(裏方です)ことがあり、この戯曲には昔から馴染んでいます。人間の弱さ、お金への欲望のむなしさ、そのために失ったものへの惜別、分かり合えない価値観など、民話に題材を取ってはいますが現代の私たちにいくつもの問いを投げかけています。
演劇からオペラになって詩情あふれる音楽の素晴らしさが加わり、物語の魅力を倍増させました。このオペラに自分が参加することになるとは想像していませんでしたが、先日ついに伊那フィルで演奏してしまいました。
伊那文化会館主催の「市民オペラ」として、プロの指揮者、歌手、演出、スタッフたちにアマチュアのオケと児童合唱が加わった企画です。(大人の合唱パートはありません。そもそも原作に他の登場人物が存在しない)
長い曲、初練習の時、正味二時間半の練習なのに曲の半分くらいまでしか音を出せなかったことにまず驚きました。これは大変なことになるなあ、と。
オペラですから、まず歌があります。四角四面なテンポではもちろんなく、場面ごとに(瞬間ごとに)歌手たちは節回しで微妙なニュアンスを表現します。それを支えていくのがオケですが、経験から伊那フィルは曲をある程度つかんで体に入ってしまえば柔軟性を発揮できますが、それまでに結構期間が要るのですよねえ。
昨年末から練習が始まりましたが、予想にたがわず6月末の本番直前まで、ホントにこんな曲できるんだろうか、と思う日々でした。劇と一緒に音楽が進んでいくので、会話の中で驚いたり、突然凹んだり狂喜したりするのを音楽で裏打ちしていくのです。交響曲などではまず現れない、オペラ独特の表現。集中力が問われます。
それでも歌のソリスト(皆さん声量も表現も素晴らしい)と合わせの練習があってからオケも急成長しました。やはり具体的にイメージできると違います。本番前は木曜日から4日連続という伊那フィル史上初めてのハードスケジュールに、皆さんよくついてきたなあと思います。